こんな日。 


 今日もほっぺたをつつく。
 私は、この感触が気に入っている。

 ここは時空管理局、医者が常駐する医務室の一部屋。
 そこに一人、ベットで点滴を受けながら眠っている。
 この人物、疲労と体調不良がいい具合に混ざっていながらも動き続けたため、職場の同僚の手によって『送りつけられた』患者だ。
 というか、同僚の人もだんだん容赦しなくなってきている。
『本人には容赦しないって言ってある。なに言っても聞かないんだコイツ。今日なんか魔法使って抵抗したんだよ?』
 後頭部のこぶについて訊いたら、こんな答えが帰ってきた。この患者はそこまで頑固だっただろうか?不思議に思ったが、そういえば頑固な人だ。
『迷惑掛ける』と彼女は謝っていた。私は「ごくろうさま」と返した。彼女は苦笑して職場へ戻っていった。

 そして、今は私にほっぺたつつかれている患者。
 ふむ、しかしこのほっぺたは卑怯だと思う。つつき、つまみ、伸ばしてひねる。
 疲労で持ってこられたにも関わらず、すべすべして、やわらかくて、ハリがある。羨ましいことだ。

 鼻をつまんでいたころ、妹がやってきた。かわいい、かわいい妹だ。
 しかし、ほっぺたがさくらんぼのように赤く膨らんでいる。
 入り口でぐるっと辺りを見渡し、私の方を見ると一直線に飛んできた。目がとても怖い。
 なんかやっちゃったかな?と思い浮かんだところで妹が急降下した。野球のフォークボールのようだ。私が好きな食器の名前だ。
 そしたら、妹がどこからかハリセンを取り出し、その勢いのまま、とても表現しやすい、つまりは『とても痛そうな音』を立てて目の前に眠っている人を叩いた。

 少し、呆然としてしまった。目の前には、ハリセンを誇らしげに天に掲げている妹。額から鼻先まで赤くなってしまった患者。
 話を聞くと、この人が職場で意識をなくしたときに約束したらしい。『今度倒れたら遠慮なくひっぱたく』と。
 その有言実行はともかく、ハリセンについて訊いて見た。
 曰く、『非殺傷設定の便利な武器』 インパクトは与えても怪我はないから良い、だそうです。

・・・別に患者が起きなかったからいいかな?

 妹は患者の髪をいじっている。ぱさぁっと広がる髪。髪を床に落としては掬い上げている。
・・・・・・なにやら、この人物は髪もさらさらしているようだ。
 妹に聞くと、この髪の毛がお気に入りだそうだ。自分と同じ手触りを感じるらしく、髪の手入れをこの人から教わっているようだ。使ってるシャンプーとか、時間の掛け方とかを講釈された。妹が遠くに行ってしまったようだ。

 眠っている人物の髪の毛を、三つ編みにし終わったころ。
 今度は上の妹がやってきた。私の、患者の方へ歩いてくる。
 彼女も患者が目当てなのだろうか?上の妹は患者の三つ編みに首を傾げつつ、そっと彼の手を自らの手に重ねた。初々しい0、奥手な女の子らしい仕草。

 正直に訊いた。
『なにか変なものでも食べた?』
『お前の昔の料理を超える物は食べたことがない』

 間髪いれずに返された。
 名誉のために言っておくが、今では食べられるものになっている。この前だって、下の妹がおいしいといってくれた出来だ。記憶にある初めての料理は、自分でもトラウマである。古傷を抉らないでほしい。

 いつの間にか、一緒になってビューラーで患者のまつげを整えていた。辺りには誰もツッコむ人はいない。
『そういえば』と、上の妹に訊いてみた。何故ここにきたのか。
 情報源はこの人物を持ってきた人。ここに患者がいることを聞いたようだ。
『この馬鹿はとっちめてやるんだ』
 下の妹と同じような約束をしたらしい。目が変わった。患者の手を握り潰さんがごとく力を入れている。
 とりあえず、怪我を増やすのはさすがにかわいそうなので注意しておく。下の妹は患者の前髪をピンで飾り付けている。
 なんか眠っている人物がかわいくなってる。三つ編みもできたし、まつげもくるんっとカールして、ピンまで付けて。
 どうせなので、私のメイクセットとネイルを二人に渡してみる。二人とも、患者が起きるまで暇だろう。

 私はお茶を煎れることにする。時間的に間食も構わないだろう。
 二人のはしゃぎ様を確認し、私は立ち上がった。


「・・・・・・・・・・・・・・・なぜ?」
「綺麗ではないか。犯人はむこうで茶を飲んでいる。理由を聞きたければ訊けばいい」
「女の身としては少々うらやましいが・・・これに懲りたら、自分を大切にすることだ」
長姉と長兄が見守っているなか。鏡をみた患者は、自らに降りかかった災難を思い、頭をひねるしかなかった。

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